【SXSW2018】『AIはエクスペリエンスデザインを変えるのか』セッションレポート

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こんにちは、DCDビジュアルデザイン・チームの後藤です。今回は Yann Caloghiris 氏によって『AI: Ready to Disrupt Experience Design?』というタイトルで行われたセッションをレポートしたいと思います。Caloghiris氏はクリエイティブエージェンシーにて、エクスペリエンスデザインに関わる多くの仕事に携わってきた人物です。

今回のセッションでは、昨今AIの性能が向上し、適用範囲が広がる中で、エクスペリエンスデザインに携わる人たちが、その仕事にAIを取り入れなければならないのか(あるいはもっと過激に、AIはデザイナーの仕事を奪ってしまうのか)という疑問に答える形で、氏が自らの仕事に試験的にAIを取り入れた結果を共有しました。

デザイナーやエンジニアはAIをどのように捉えているか

昨今のAIは、画像認識や文章解析など、様々な面で性能の向上が目覚ましく、その応用可能性は膨大に広がっています。Caloghiris氏は、かつてAIがこれほど注目を集めたことはないにもかかわらず、その活用例がそれほど多くないことを指摘し、その原因として下記を挙げています。

  • AIの活用の仕方がわからない。
  • AIの出す結果をどのくらい信用してよいのかがはっきりとしない。
  • 会社のAIに対する理解が乏しい、もし理解があったとしても内製でやろうと考える人は少ない。

このような状況のために、デザインエクスペリエンスに関わる人たちは、AIの自分たちの仕事への影響度合いを測りかねているとしています。

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さらに、Caloghiris氏はデザイナー(AIツールを使う人)とエンジニア(AIツールを作る人)を対象に、AIについてどのように考えているかというアンケートを取りました。その結果の要点が下記になります。

  • 興味深いことに、どちらの側にも、自分たちの仕事に対して、AIがまったく脅威ではないと答えた人はいなかった。
  • デザイナーは、現在の仕事の3分の1が、10年以内に、AIに置き換えられるだろうと考えている。(多くは5年以内と回答)
  • エンジニアの多くは、今の仕事の3分の1が、現状のAIによって既に置き換え可能だと考えている。(それ以外の回答者でも5年以内と回答している)
  • このように、デザイナーとエンジニアのAIに対する考えにはギャップが存在する。

Caloghiris氏はこのギャップを埋めるため、つまり現状のAIがエクスペリエンスデザインに利用できるものであるかを検証すために、3つのエクスペリエンスデザインの過程にAIを試験導入しました。

 

エンドユーザー理解

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1つ目の実験対象は、ユーザーが製品を実際にどのように使っているかを調べるエンドユーザー理解です。車のエクスペリエンス調査をする際に、車にカメラを設置し、長時間のドライブにおけるユーザーの感情の変化を捉えるという調査方法があります。これにAIの表情認識を導入し、従来の人間の調査員によるカスタマージャーニーマップの結果と、AIによる表情認識の調査結果を比べてみたそうです。その結果、両者は概ね関連性がみられたそうです。

一方で、大きく違っていたところもあり、調査員は渋滞にはまっていた時のユーザーの不満という感情を捉えられていたのに対し、その時のAIの分析結果は、平坦な感情グラフを描いていたそうです。調査員はユーザーが渋滞にはまっているという状況を理解していたのに対し、AIは表情のみを見ているために、このような見落としがあったのではないかとCaloghiris氏は推測しています。このように精度には疑問が残るものの、分析の驚異的な早さ(人間が23時間かかったところをAIは2時間で済んだ)は魅力的であり、従来の調査に加えて補助的に使うのが良いのではないかと結論付けています。

 

プロダクトデザイン

2つ目の実験対象は、プロダクトデザインです。車体のデザインを対象に、AIを使って軽量化、材料の節約といった、様々な観点から、デザインの検討を行ったそうです。

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スライドの真ん中のデザインが、AIに従来のデザインを軽量化させたものです。ただ、実際に組み立ててみると崩れてしまうなど、現実とはギャップがあったそうです。もっともこれは人間が設定するAIのパラメーターの問題なので、今後のAIの発展とともに向上するでしょう。ただ、現状のAIはユーザビリティ、つまり実際の使い勝手などを考慮していないために、車体デザインにおいてすぐさまAIが実用的かというと、そうでもないようです。新しいデザインの着想を得るという用途では有効なようです。

 

行動パターン分析

3つ目はオートショーの来場者調査です。現状の調査は、インタビューなどのユーザー調査が中心だそうですが、有意な数の結果を手に入れるには大変な手間がかかります。パネルなどのデジタルタッチポイントからデータを取るという方法もあるそうですが、こちらは点や数の情報になるため、ユーザーの動線や目的、どこで立ち止まって、どこで話をしていたか、などの情報が手に入らないという問題があります。しかし、AIの画像認識を使えば、モーターショーの定点映像をもとに、顧客の行動分析を行うことができるようになります。

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上の画像はモーターショーの動画をAIで分析している様子です。人のまわりにカラフルな四角い枠が出ていることがわかりますが、これはAIが人の形を認識し、その状態を色分けした結果です。実際には動画なので、人が動くと枠もその人に付いて行くようになっています。

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Caloghiris氏はこれを非常に有効なAIの活用ケースだと結論付けています。人の密度だけでなく、どの場所で立ち止まっている人が多かったのか、歩いている人が多かったのかという情報を、時間軸を追加した情報として可視化することができるようになり、これはAIの非常に有効なアドバンテージです。さらに、先に出ていたデジタルタッチポイントを使った調査と比べても、会場のデジタルコンテンツを利用しないサイレントマジョリティー(時には来場者の80%を占めることもあるそうです)の行動を数値化できるという点でも大きなメリットがあるそうです。

まとめ

エクスペリエンスデザインの現場には、現状のAIでも補助的な役割ということであれば有効なようです。一方で、今回の実験で、うまくいかなかった部分は、現状のAIの精度や、人間のパラメーター設定の問題のような気もします。ただ、Caloghiris氏もセッションの中で言及していたように、現状、AIの技術者は不足しており、優秀な技術者は、金融や医療業界、グローバルIT企業などが、非常に高い条件を提示して囲い込んでいるため、デザイン業界にはAIの技術が行き渡っていないようです。

エクスペリエンスデザインにおいて人からAIに置き換わるのは、まだ少し時間がかかるかもしれません。Caloghiris氏はそのような現状を踏まえ、クリエイティブに関わる人たちが積極的にAIを導入し、その結果を共有していくことが、エクスぺリエンスデザインにおけるAI活用が進むために重要だと呼びかけていました。

Topics: レポート, ブランディング, セミナーレポート, クリエイティブ


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